駅の階段
地下鉄の駅の階段で座っている人がいた。
はじめはやばい人かも、関わらない方がいいやつか、と思ったが近づいていくうちにわかった。
隣に置いているのはロフストランド杖で、何らかの理由で座り込んでしまって、手すりを掴んで立とうとするが立ち上がれないようだった。
声を掛けると「靴が脱げてしまって」、と。
状態は両下肢に軽度から中度の麻痺、上半身には麻痺ほとんど無いようだが体を捻ることが出来ないということは腰の辺りまで不自由なのではないか、という具合だった。
靴を履くために前傾姿勢を取ろうとすると、足に麻痺があるために踏ん張りがきかず、転がり落ちそうになるのだろう。
しかし立ち上がったとしても屈んで靴を履くことはかなり厳しいだろう。
1人ではどうにもできない状態だったのだ。
靴を履かせて立ち上がり介助して、エレベーターを使いますかと聞くと、「エレベーターがある側に行ってしまうと、青信号のうちに横断歩道が渡りきれないので」とのこと。
階段を昇るのには慣れているようでもう大丈夫です、ありがとうございます、と言われ立ち去る。
横断歩道を渡り終わる事が出来ないから足が悪くてもエレベーターが使えず、座り込んでしまっても、わたしが見た限り10人以上が横を素通りしていった。
タクシーを使えばいいがそうもいかない事情があるのかもしれない。
素通りしていった人たちは、自分がある日突然事故にあって同じ境遇になった時、困っている時に健康な脚を持った人に見て見ぬふりされたらどんな気持ちになるかとか、考えないんだろうか、考えないんだろうな、と思った。
結局人の為になりたいというエゴでしか人に親切に出来ない自分のことを放っておいて好き勝手に考えた。